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医師がエビデンスもないものを断定していいの? [健康情報、本当の話]

医師は通常、エビデンスに基づいた治療をします。特別な治療法を看板としているなら話は別ですが、そうでなければ、少なくとも患者はそう考えます。もっとはっきりいってしまえば、エビデンスに背を向けた医師はその存在意義自体を問われかねません。

石原結實さんという医師がいます。どさくさに紛れて選挙にも出ているタレント医師です。大変人気があり、3年後でないと初診の予約が取れないとか。

石原結實さんの主張は、これまで上梓した数多くの本のタイトルでだいたいわかります。



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『「体を温める」と病気は必ず治る』(三笠書房)、『「水分の摂りすぎ」は今すぐやめなさい』(三笠書房)、『「朝だけしょうが紅茶」ダイエット 7日間、体を温めて水を出す』(PHP研究所)、『石原式毒出しダイエット』(海竜社)、『野菜だけで病気を治す』(廣済堂出版)、『プチ断食健康法 やせる、きれいになる、病気が治る』(PHP研究所)……。

本の題名を見ると、「必ず治る」「やめなさい」「病気を治す」など、断定的な書き方になっています。

本を売るためとはいえ、医師としてはいかがなものでしょうか。患者にとっては心強いかもしれませんが、それらはエビデンスがないことばかりです。

石原結實さんのキーワードは、「食べもの」と「体を温める」で、それによって毒を出したり免疫力を高めたりダイエットしたりする、というものです。

そして、「食生活によって病気が変化する」「食が病気を規定している」(『野菜だけで病気を治す』)などとしていますが、予防や、治療・闘病中の体力を守るためならともかく、重篤な病気がそれだけで「治る」と言い切るべきではないでしょう。

たとえば、喫煙はがんの因子として疑うものではありませんが、だからといって、たばこを吸っても全員ががんになるわけではなく、なる人とならない人がいます。がんは「複雑系」だからです。

食べものも同様で、一つの因子であることは確かですが、同じものを食べた人がみな同じ病気になるのかというと、おそらくそうはならないでしょう。

「病気を規定している」とまで言い切るなら確たる根拠を示すべきです。

東大病院放射線科準教授、緩和ケア診療部長・中川恵一さんの具体的な記述によって理解を助けていただきます。
「がん細胞は、健康な人の体でも一日に5000個は発生し、免疫細胞によって消えていくことがわかっています。(中略)免疫細胞は、できたばかりのがん細胞を攻撃して死滅させます。私たちのカラダのなかでは、毎日毎日『5000勝0敗』の闘いが繰り返されているのです。  しかし、年齢を重ねると、DNAのキズが積み重なってがん細胞の発生が増える一方で、免疫細胞の機能(免疫力)が落ちてきます。そのため、がん細胞に対する攻撃力が落ちる結果、発生したがんが免疫の綱をかいくぐって成長する確率も増えるのです。  長生きするとがんが増えるのは、突然変異が蓄積されるのと、免疫細胞の働きが衰えるからなのです。がんが老化の一種、と言われるのはそのためです。がんは、一部の例外を除き遺伝しません (例外は家族性腫瘍)。むしろ『がんになる、ならない』は運の要素が大きい」(『がんのひみつ』朝日出版社)
このように、中川さんは「老化」と「運」を挙げています。

食べものにしろ喫煙にしろ、「5000勝0敗」を完璧に続けていれば無問題なわけで、それが老化して勝率10割を保てなくなったり、何かの拍子で潰しそびれたりしてひっそりと残ってしまったがん細胞が、大きくなって行くわけです。

細かい所も少しだけ見ておきます。

『ドクター石原結實の若返り健康法』(海竜社)には、「突然死の原因」として「A型性格の人」と書かれていて脱力しました。医師がそんなことを書いていいのでしょうか。

「身体を温める食べ物」「冷やす食べ物」などが書かれているページでは、温める方に「ご飯」と書かれ、「冷やす」方に「白米」などと書かれています。

編集者もついているだろうに、いい加減なものです。ゴーストライターの可能性もありますが、自分の名前で出ている本ですから石原さんも責任逃れはできません。

同書によると、水は「水毒」で緑茶は「身体を冷やす」そうです。しかし、緑茶は利尿効果があるといいますし、水毒を解消する働きがあるのではないかとの解釈もできます。

このへん、きちんと辻褄の合う説明を求めたい。それに、具体的な数字も挙げないままで水が禁忌であるかのような書き方をすると、真面目な読者は「水を飲むことはいけないのだ」と勘違いしてしまいます。

言うまでもないことですが、人間が生きていく上で水は必要なものです。

“怪しい健康本”に共通していえることは、性差や年齢差、体格差、さらには人種や民族、職業による生活リズムの違いなどを全く考慮も検証もせず、一律に「○○はいい(悪い)」と断じていることです。



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たとえば、基礎代謝や運動量によってカロリー摂取を調整するというのは、冷静に考えればシロウトでも判断がつくと思うのですが、それは年齢によってもかわってきます。

ところが、大衆はセンセーショナルな表題やドラスティックな体験談などに踊らされ、ほどよい中庸の価値観も捨て去り、「ばっかり食べ」「絶対禁忌」といった、筆者が名付けるところの「オール・オア・ナッシング症候群」に陥るのです。

健康情報・本当の話

健康情報・本当の話

  • 作者: 草野 直樹
  • 出版社/メーカー: 楽工社
  • 発売日: 2008/05
  • メディア: 単行本


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REY_MALMSTEEN

初めまして、レイと申します。お邪魔します。
ご訪問&nice! 頂きましてありがとうございます。
生命に直結する身体に関する事「健康」については
誰もが一番気にする所ですし、病気を患っている
ご本人、そしてご家族の方々にとっては更に切実な問題です。

そのような方々が求めている情報となる本などに
軽々しくも「〜すべきだ」とは書くべきではありませんね。
何故なら、同じ症状でも人それぞれ微妙な差(アレルギーを
持ってたり)がありますし、一人も漏らさず確実に
万民に効果がある特効薬などは、存在しないと考えます。

繊細な問題だけに、情報を発信する側の編集者も、著者も
もっと気を配って発行してもらいたいものです。
by REY_MALMSTEEN (2010-09-01 14:50) 

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