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血液サラサラ?

新谷弘実さんの『病気にならない生き方』(サンマーク出版)という本について、同書の大ヒットは、現在の医療に対する国民の不満や不安の反映、という面も見ておく必要があるということを前回書きました。

ただ、そうした「正しいこと」だけでなく、以下に見るような看過できない箇所も含まれているところに、同書の最大の問題があります。

「『還元力』の強い水こそ良い条件」という見出しが同書にはあります。

「ナントカ還元水」という言葉を流行させて自殺した大臣もいましたが、電解還元水なる「健康によい水」とされる水が昨今もてはやされています。これは、電気分解による酸化還元反応(酸素と結びついたり酸素を失ったりする反応)で得られた陰極側の液のことを指します。

この液の抗酸化作用について、九州大学の白畑實隆教授らは、酸化作用が強い活性酸素を還元して消滅させる活性水素という物質が水の中に存在していると主張しました。

しかし、これはまだ科学的に認知された説ではありません。活性を与える化学種(原子、分子、イオン、ラジカルなど、化学反応に関与する粒子の総称)を明らかにすることなども行われていません。たとえば、杏林大学准教授・平岡厚さん(生化学)は、確かに試験管では一定程度の抗酸化作用を有すると考えられるものの、「活性水素」の作用はなく、カチオン系ミネラルと関連していると推定されるものの、まだ実体は特定できていないという報告を行っています(JAPANSKEPTICS助成研究)

ところが、還元水器メーカーは、電解還元水は活性水素によって抗酸化作用があるから体によい、という宣伝を行っています。

認知されていない段階で、あたかも実証しているかのように販売することは、消費者や科学を欺く行為と言わざるを得ませんが、問題は、現役の医師である新谷さんまでが同書にこれを書いていることです。

これもよく聞く話ですが、「血液ドロドロ」の記述も同様です。

「人間より体温の高い動物の脂が人間の体にはいるとベタッと固まってしまい血液をドロドロにする」

同書にはそう書かれています。本当にそんなことで血液が「ベタッと固まっ」たら人間は死んでしまいます。脂は胃で消化され腸で分解された栄養素が吸収されるのですから、そもそも脂がそのまま血液にのるわけではありません。

巷間いわれる血液の「サラサラ」や「ドロドロ」のさすものは、血中のコレステロール値であったり血糖値であったり白血球(リンパ球)であったりと、もともと定義のいいかげんなものです。

健康情報番組で使われている血液の「サラサラ」や「ドロドロ」を測定・観察できる機械は、MCーFAN(MicroChannel array Flow ANalyzer)といって、赤血球(8ミクロン)がそれより狭い毛細血管(6ミクロン)を流れる際に形を変えて通る能力(変形能)を観察するものに過ぎません。ですから、「サラサラ」が健康、「ドロドロ」が不健康ということではありません。

医師なら、そんないい加減なものは高脂血症や高血糖、高コレステロール血症といった疾病とは無関係であり、それにつけこむ業者に騙されてはならない、という指導をすべきでしょう。

現役の医師でも、わかりやすく表現するために患者に対して「血液をサラサラにするお薬」などという場合はあります。

そうしたまぎらわしさも患者は戸惑いを感じています。

(次回に続く)


『健康情報・本当の話』 草野直樹=著 328ページ 定価2100円(本体2000円+税)

正体不明の健康食品から癌の代替療法、みのもんたと「おもいッきりテレビ」、倖田來未の「羊水が腐る」発言まで、さまざまなメディアに氾濫するデタラメな健康情報。これらの情報を豊富な資料と独自の取材を通じて検証し、誰もが気になる「本当のトコロ」を明らかに。さらに、健康情報に対するまっとうな接し方を示す。ヘルス・リテラシーが身につく一冊。
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すもも

ご訪問&niceありがとうございます。
訪問が遅くなりすみません。
by すもも (2010-10-17 20:38) 

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