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牛乳や乳製品が腸相を悪くする、という説の疑問 [健康情報、本当の話]

牛乳や乳製品が腸相を悪くする。前回から読み解いている『病気にならない生き方』(新谷弘実著、サンマーク出版)にはそう書いてあります。120万部を売ったベストセラーです。しかし、腸相という概念自体が曖昧ですし、「腸相」なるものが悪いことの原因が牛乳や乳製品「だけ」と断定できる根拠もありません。今回はそのへんを読み進めていきます。


前回は、「胃腸内視鏡の専門医になって約四十年がたちましたが、じつをいうと私はまだ一度も死亡診断書を書いたことがありません」(第一章)という書き出しについて、

「死亡診断書を書いたことがない」ことと、「自分の患者が全員治癒する」ことはイコールではない、ということを書きました。



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次に、「胃相、腸相」「(ミラクル)エンザイム」といった聞き慣れない文言を使っていることについても一言しておきます。

サイトを検索すると、「胃相」「腸相」という言葉は「がん」との関わりで取り沙汰されているものもありますが、少なくともそれらは医師の目見当や経験則に拠る判定といわざるを得ず、大腸ポリープのように数値を伴った定説にはなっていません。

大腸ポリープなら、何ミリならがんの心配があるから切除した方がいい、という数字の目安がありますが、「胃相」や「腸相」にそういったものがあるのでしょうか。

たとえば、医師が胃を診た時に患者に対して萎縮しているとか、荒れているといったように状態を述べることはありますが、「胃相が悪い」という診断は一般的ではありません。

「エンザイム」というのは酵素のようです。酵素自体は、生体が物質を変化させて利用するのに不可欠な物質として実在します。ただし、「ミラクルエンザイム」というのも新谷さんの個人的な仮説に過ぎません。

新谷弘実さんの中に根拠があろうがなかろうが、問題はそうした言葉や基準が、読者に対して客観的に伝わるものではないということです。

いずれも、新谷弘実さんがわざわざそのような言葉で表現しているのは、ふたつのねらいを読み取ることができます。

ひとつは、めずらしい言葉を使うことによるインパクトを読者に与えたり、主張の独自性を演出したりすることです。

援助交際という言葉が流行しだした時は新しいことのように思えたかもしれませんが、何のことはない。ただの売春でした。

もうひとつは、めずらしい言葉を使うことで、医学的にわかっている胃腸の所見や「酵素」の定義やはたらきを超えた(無視した)、自分勝手な解釈を使うエクスキューズにするというねらいです。

もうひとつ、数字の使い方が科学的ではありません。

新谷弘実さんはご自身の実績として、「30万人の患者を診てきた」と誇っています。

数字の誇示は、読者にとっては頼もしく見えるかもしれませんが、実はこれがたとえ100万人であっても、文脈的にあまり意味はありません。

もちろん、医師としての経験を軽く見るわけではなく、要は、30万人診ようが100万人診ようが、問題はどういうサンプルの取り方をしてきたのかということを明らかにしなければ医学的な意味が無い、ということです。



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つまり、統計学的に認められた抽出による客観的な考察ならいいのですが、たんに「僕はこう思う」などという個人的見解では、そもそも客観性を欠いています。

その見解の補強に、もっともらしく何人の患者を経験したかという数字をひけらかすのは科学的な価値を持たないどころか、疑似科学にすらなってしまいかねないと述べているのです。

たとえば、「内視鏡医として30万人診てきたが、毎日ヨーグルトを食べている人に『腸相』の良い人は一人もいなかった」と書かれています。

だからヨーグルトは腸に悪いと言いたいらしい。

でも、ちょっと考えて欲しいのです。

内視鏡医が診るのは、「『腸相』の良い人」よりも「悪い人」の方が圧倒的に多いでしょうから、その中に牛乳や乳製品を食す人がいたからといって、それらが腸に悪いということにはなりません。

もし、筆者が新谷弘実さんの立場で同じ経験をしたら、「牛乳や乳製品が腸を悪くする」とは言わず、「腸の悪い人の中に『も』牛乳や乳製品を食す人がいた」と言うに留めていたでしょう。

医学知識がなくても、臨床医でなくても、論理的に考えれば誰にだってわかることでしょう。

数字自体は確かに客観的なものです。しかし、その取り扱いを間違うと、疑似科学の道具になってしまうのです。

詳しくはコチラ>>

(次回に続く)
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